
加速する街東京で、消えない「個」を追う連載企画 「Why you in Tokyo?」
刺激とスピードに満ちた街、東京。絶え間ない変化の中で、人々は自分を磨き、強く、美しく振る舞う。
けれどその内側には、外からは見えない葛藤や悩み、不格好でリアルな感情、そして純粋な想いが隠れている。
表現者たちは、なぜ東京を選び、ここで活動を続けるのか。会話を通して、都心で生きる若者たちの飾らない素顔を切り取る。
今回登場するのは、ビジュアルアーティスト / グラフィックデザイナーとして活動するAsahiNa。
日常の中で触れていくものをビジュアルに落としこみ、独自の質感や色彩表現で注目を集めている。
地方から東京へ。憧れとギャップ、その両方を経験しながら活動を続ける彼女に、この街との関係を聞いた。

―― 現在の活動について教えてください。
AsahiNaです。ビジュアルアーティストとグラフィックデザイナーとして活動しています。
自身のアートワーク制作を軸に、ブランドとのコラボレーションやビジュアル制作、時にはディレクションも行っています。
基本的には自分のスタイルを提供する形でグラフィックを制作することが多いです。
グラフィックを本格的に始めたのは大学に入ってすぐ、18歳の頃でした。それから約7年ほど活動を続けています。
―― 今の活動をするに至った経緯を教えてください。
高校では理系に進んでいて、当時は教師志望でした。
ただ、もともとパッケージや雑誌のレイアウトを見るのが好きで、毎月雑誌を立ち読みしていたので、
教師志望ではあったものの、将来はビジュアルをつくるような仕事をするんじゃないかなっていう気持ちがどこかにありました。
それで高校3年生のタイミングで、美大に進みたいと思うようになって。かなり急な進路変更でしたね。
受験の準備期間も短く、デッサンの経験もほとんどなかったので、自分の弱点は明確でした。
その分、デジタルでの制作を強みにしようと考えて、PhotoshopとIllustratorを独学で覚え、制作物をポートフォリオとしてまとめました。
その時の経験が、現在の活動のベースになっています。
―― なぜ独学でスキルを磨く道を選んだのですか?
独学はこだわりというより、必要だったという感覚です。
上京したての頃は、技術面で他と差をつけないと埋もれてしまうという危機感がありました。
CGやグラフィックの表現を中心に、自分で調べながら制作を繰り返していく中で、結果的に独学になったという形です。
当時は、技術的な部分でなめられないようにという意識が強かったと思います。
今は技術だけでなく、自分のスタイルをベースにしつつ、手書きで仕上げたり、ディレクションに寄ったアウトプットをしたりと、表現の幅を広げることも意識しています。

―― 東京という場所を選んだ背景を教えてください。
東京に行きたいというより、どこか外に出たいという気持ちが強かったです。
山梨の中でも比較的田舎の地域で育ち、文化的な場所や選択肢の少なさに物足りなさを感じていました。
映画館も県内に一つしかなく、雑誌で見た場所やカルチャーに直接触れる機会も限られていたので。
それと、生活がルーティーン化している感覚があって、もっと多様なものに触れたいという気持ちが自然と生まれていました。
―― 地方から見た「都市」への憧れはありましたか?
歩道橋のように、人が通るためだけに存在する構造物にも憧れがありました。そうした都市特有の余白や機能性が、すごく贅沢に感じていたんです。
ただ、上京する際には「文化資本の差」を強く意識していました。東京で育った人たちが18年間で触れてきたものと、自分の環境との違い。
教養や経験のベースが違うことに対して、引け目のようなものも感じていました。その分、差を埋めていかなければいけないという意識は強かったです。

―― 実際に東京に来てみて、期待とのギャップはありましたか?
最初に思ったのは、少し夢見すぎていたかもしれない、という感覚でした。
引っ越してみると、東京も普通の街で、普通の時間が流れていて。その中でみんな忙しそうだったり、少し疲れていたり。
同じ時間のはずなのに、人の気質が違うように感じて、パラレルワールドのような感覚がありました。
幼少期に抱いていた東京への期待とは少し違う現実でしたが、そのギャップも含めてこの街だと思っています。
―― 東京での生活に慣れてきたと思うんですが、気持ちの変化はありますか?
東京という街に対して今は当時ほどの憧れの強さはないですが、
昔の自分に恥ずかしくないように、忙しい街の中でも感受性を持って街に向き合っていきたいと考えています。

―― 東京で活動する中で感じている、この街の特徴はありますか?
東京はコミュニティ文化が強い街だと感じています。密度が高い分、特定のシーンや関係性の中で活動が循環することも多い。
良さでもあり、閉じた構造にもなり得る部分だと思っています。
ただ、自分としては何かに依存したりしている状態があまり美しくないなと感じているので、ジャンルや年齢に関係なくいろんな場所に出入りしたり、興味のあるところには一人で行くことも多いです。
―― 上京してから作風に対する考えや、作風で変わったところはありますか?
色味や質感は上京した時にだいぶ変わったんじゃないかなと思います。
作品はその時感じていることや見ているものがそのまま現れるものなので。
上京した当時は、自分の性別に対するコンプレックスがありました。
カルチャーシーンの中で女性の名前が前面に出ているケースが少ないように感じていたのと、「女の子っぽい」表現だと女性向けの案件に限定されるような感覚があって、そこに違和感がありました。
実際に仕事でも、最初からレディースラインの依頼として声がかかることもあって、表現の幅が先に決められてしまうような印象があったんです。
当時はそういった状況に対する反発もあって、男女どちらとも取れない表現を意識するようになりました。
名前の表記をAsahiNaにしているのも、性別がすぐに分からない状態をつくりたかったからです。
―― そうした背景がある中で、AsahiNaさんが作品を届けるとき、どのようなスタンスを大切にしていますか?
東京のコミュニティ文化とも関係していると思うのですが、このシーンでは人柄で評価が決まる場面も多いと感じています。
その一方で、私のSNSに辿り着かない人にとっては、作者の人物像が分からないまま作品に触れることになると思うので、 その時に、余計な情報がない方が潔いというか、少しミステリアスな状態の方がいいと思っていて。
人柄ではなく、アウトプットそのもので評価される距離感を意識しています。

東京に対する憧れと、実際に訪れて感じたギャップ。 地方での経験、上京後に抱いた違和感、そして都市の中での距離感。
それらを否定するのではなく、すべてを受け止めながら、自分なりの表現へと昇華していく。
固定されたスタイルに留まらず、環境や感覚の変化に応じてアウトプットを更新し続ける姿勢が、AsahiNaの輪郭を形作っている。
コミュニティに依存しすぎず、性別や人物像といった外的な要素からも距離を取りながら、作品そのもので評価される状態を志向する。
そのスタンスは、流れの速い東京という都市の中で、個を保ち続ける一つの方法とも言えるだろう。

今回彼女が着用したのは中国ブランドのbetweenand
カラフルな配色やプレイフルなデザインが特徴。可愛さとエッジを共存させるアイテムを展開している。
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